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2011年2月27日 (日)

アイルランド総選挙

25日に行われたアイルランド総選挙で与党が敗北して政権交代だと新聞各紙が報じている。
今のところ確定しているのは166議席中150議席で
FG(フィナ・ゲール/統一アイルランド党) 68(51)
LAB(労働党) 35(20)
FF(フィアナ・フォイル/共和党) 17(78)
SF(シン・フェイン党) 13(4)
無所属 13(5)
SP(社会党) 2((0)
PBA(利益の前の国民同盟) 2(0)
GP(緑の党) 0(6)
PD(進歩民主党) -(2) 
※()内は前回2007年の獲得議席。PDはその後解党したため今回は立候補していない。

とまあ、長年政権与党であり続けたFFの歴史的大敗という結果になった。
FFとFGは政策的にはともに中道右派という位置づけだが、設立基盤が1921年のアイルランド独立においてイギリスからの完全独立派(FG)と英連邦内の暫定独立容認派(FF)の対立から、血で血を洗う内戦を経て生まれたものだけに政策以上に違いは大きい。ちなみにSFは完全独立派の中の最強硬派IRA(アイルランド共和国軍)の政治組織である。その意味では今回の選挙はEUによる財政健全化の押し付けに反発する国民の心情が完全独立派を母体とする政党の勝利を導いたという見方もできそう。もちろんだからといってFGにどれだけ政策選択の余地があるのかは別問題ではあるけれど(あれ?なんか日本の民主党政権みたいだ)。
緑の党の壊滅的敗北も前回選挙後FFと連立を組んだことが災いしたといえそう。

しかし、選挙ファンに見逃せないのは単記移譲式とも言われる国会議員選挙ではまれなアイルランドの選挙制度の難しさかつ面白さ。
選挙区は定員3~5人の区で、日本が小選挙区比例代表併用制に移行してしまった今世界でも珍しい中選挙区なのだが、投票者は1人に投票するのではなく選挙区の定員分だけ順位をつけて投票する。定員5人なら当選して欲しい順に1位から5位まで立候補者のリストに数字を振っていくことになる。
大変なのは開票。
まずは投票用紙の1位の票を集計する。
ここで投票総数÷(定員+1)+1票(これは当選のための必要最少得票数)以上を獲得した候補がいればその候補者は当選。そして、必要最少得票数以上の獲得票数を、彼へ1位に投票した票のうち2位と書かれた候補者の割合で分配する。ここで新たな当選者が出ればまた同じことを繰り返し、当選者がいなければその時点での最下位(もしくは規定得票に達していない>どうやら規定得票に達しないではなく最下位候補の票が仮に全部渡っても次の最下位順位が変わらない候補のようです)候補を落選と決定する。今度はその落選候補の投票用紙で2位に指名されていた候補へ票を分配する(2位に指名された候補が落選していれば3位、3位が落選していれば4位…)。これを延々定員+1で最後の落選者が決定するまで繰り返す。この制度の最大の利点は他の制度に比べて死に票が圧倒的に少ないことである。
もっとも実際には、すでに結果の出ている39選挙区をみるとこれによって1位票の集計と当選者が変わったのは7選挙区でしかもそのうち2選挙区は同じ政党同士の順位の変動だから、この面倒な手続きを経て選挙結果が変わったのは5選挙区でしかない。これをわずかと見るか大きな影響と見るか。もちろん未定の4選挙区はなかなか結果が出ないだけあって順位の変動の可能性は高いが、仮にすべてで変動があったとして、それを含めても9選挙区ということになる。
効率という面では疑問もあるが、なかなか興味深い選挙制度である。

今回の選挙結果から変動のあった選挙区を例に上記の制度を観てみよう。
取り上げるのは南部のWaterford選挙区。
定員4人有効投票総数は53720票。
必要最低得票数は53720÷(4+1)+1=10745票
立候補者は15人。1位獲得票数の開票結果は、
DEASY, John FG 10718
COFFEY, Paudie FG 9698
KENNEALLY, Brendan FF 7515
CONWAY, Ciara LAB 5554
HALLIGAN, John IND 5546
CULLINANE, David SF 5342
RYAN, Seamus LAB 4638
HIGGINS, Tom IND 1130
COLLERY, Justin IND 967
TOBIN, Joe WP 873
CONWAY, Joe IND 725
POWER, Jody GP 462
NUTTY, Ben IND 257
WATERS, Declan IND 222
KIERSEY, Gerard IND 73
誰も10745票に達していないので最下位候補を落選と決定しその73票を分配する。それでも当選者が出なかったので次のWATERS候補を落選としてその223票(1票増えていた)を分配する。
その結果が
DEASY, John FG 10751
COFFEY, Paudie FG 9737
KENNEALLY, Brendan FF 7555
HALLIGAN, John IND 5569
CONWAY, Ciara LAB 5565
CULLINANE, David SF 5361
RYAN, Seamus LAB 4652
HIGGINS, Tom IND 1150
COLLERY, Justin IND 983
TOBIN, Joe WP 889
CONWAY, Joe IND 738
POWER, Jody GP 465
NUTTY, Ben IND 276
トップのDEASY候補が10745票を越えたので当選が決定。次いで最下位の落選が決定してその276票を分配。これを繰り返して8位以下の候補の落選が決定した時点での得票数は
DEASY, John FG 10751当選
COFFEY, Paudie FG 10703
KENNEALLY, Brendan FF 7968
HALLIGAN, John IND 6448
CONWAY, Ciara LAB 6424
CULLINANE, David SF 5868
RYAN, Seamus LAB 5113
トップの候補の得票が変わらないことから当選決定者もまた落選決定者と同様にそれ以後の計算ではカウントされないことが分かる。ここで労働党の最下位候補の落選が決定して票を分配。
COFFEY, Paudie FG 11236
DEASY, John FG 10751
CONWAY, Ciara LAB 9216
KENNEALLY, Brendan FF 8207
HALLIGAN, John IND 7373
CULLINANE, David SF 6298
労働党候補の5113票は同じ党のCONWAY候補に2792票、無所属のHALLIGAN候補に925票、FGのCOFFEY候補に533票、SF党候補に330票、FFのKENNEALLYには239票回ったことが分かる。
ここで新たにCOFFEYの当選が決定し、またCULLINANE候補の落選も決まる。
その6298票を分けた結果が
COFFEY, Paudie FG 11236当選
CONWAY, Ciara LAB 11182当選
DEASY, John FG 10751当選
HALLIGAN, John IND 9602
KENNEALLY, Brendan FF 8782
CONWAY候補が2000票近くを獲得して当選。HALLIGAN候補が2200票を移譲されて、500票しか貰えなかったKENNEALLYを抜いて4位に。しかしこれで決定ではない。最後に今当選が決まったCONWAY候補の得票から必要最小票を引いた11852-10745=1107票がある。これは下位両候補の票差以上の票数なので、これを両候補への移譲票の割合で分配すると。HALLIGAN候補が9818票、KENNEALLY候補が8845票となり、1位獲得投票数では3位だった候補の落選が決定した。

ふ~こりゃ大変だ。


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コメント

ものすごい分析です。
これほどの記事は見た事ありません。


>投票者は1人に投票するのではなく選挙区の定員分だけ順位をつけて投票する。定員5人なら当選して欲しい順に1位から5位まで立候補者のリストに数字を振っていくことになる。

「立候補者全員に順位を付ける」の間違いではないでしょうか?

投稿: 誠司 | 2011年3月 5日 (土) 17時58分

誠司さんどうも、白内障の手術をしたりでレスが遅れて申し訳ない。
>「立候補者全員に順位を付ける」の間違いではないでしょうか?<
私は単なる選挙ファンでして制度的なことはおおよそしか知らず、あとは結果を見ながら勝手に考えているだけなんですよ。ですので間違いもなにも基本的知識が欠けてるんです。カウントが進むに従ってだんだん総票数が減っていくので、ナンバリングが候補者全員とは思いませんでした。ご指摘ありがとうございました。最後までよりましを選択させるわけですか。楽しいですね。
そういえば最終議席は当選者の剰余票の分配で逆転しましたね。

投稿: 眠鳥 | 2011年3月11日 (金) 10時27分

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